ジョルダン標準形(1) : ジョルダン細胞と冪零行列

このシリーズでは、ジョルダン標準形について扱う。
今回はジョルダン細胞を定義し、その累乗を求めるための冪零行列について紹介する。



ジョルダン細胞

\(\lambda\in\mathbb{C}\)を用いて\(n\)正方行列のジョルダン細胞を以下で定義する。
\begin{align} {J_n}(\lambda):=&[\lambda\delta_{i,j}+\delta_{i+1,j}]\\ =&\lambda I_n+{J_n}(0) \end{align}
但し、\(I_n\)は\(n\)次単位行列、\(\delta_{i,j}\)はクロネッカーのデルタである。

定理1.1
任意の\(m\in\mathbb{N}\)に対して、\({J_n}^m (0)=[\delta_{i+m,j}]\)である。\(\cdots (\ast)\)

証明
\(m=1\)のとき、定義そのものから\({J_n}^1 (0)={J_n}(0)=[\delta_{i+1,j}]\)であるから成立。
\(\mathbb{N}_{\leq m}\)で\((\ast)\)が成立しているとすると、
\begin{align} {J_n}^{m+1}(0)&={J_n}^1(0){J_n}^m(0)=[\delta_{i+1,j} ] [ \delta_{i+m,j}]\\ &=\left[\sum_{l=1}^n \delta_{i+1,l}\cdot\delta_{l+m,j}\right] \end{align}
ここで、和に\(0\)でない項があるとしたら、\(i+1=l,\ l+m=j\)でなければならないので、\(i+m+1=j\)の項のみ残る。
したがってこの和はクロネッカーのデルタを使って\(\delta_{i+m+1,j}\)と書けるので、\(m+1\)でも成立し、数学的帰納法により\((\ast)\)は示された。

冪零行列

\(n\)次正方行列\(N\)に、\(m\in\mathbb{N}\)があって、
\begin{align}N^m=O\end{align}
が成立するとき、\(N\)は冪零行列であるという。

系1.2
\({J_n}(0)\)は冪零行列である。

証明
上の定理から、\({J_n}^m(0)=[\delta_{i+m,j}]\)であり、\(1\leq i,j \leq n\)で\(i+m=j\)を満たす\(i,j\)が存在しないような\(m\)を持ってくればよい。
\(m=n-1\)のとき
\(i+n-1=j\)となる\((i,j)\)は、\((i,j)=(1,n)\)のみであり、\({J_n}^{n-1}(0)\neq O\)である。
\(m=n\)のとき
\(j\leq n\)であるから、\(n+1\leq i+n=j\leq n\)となるような\((i,j)\)は存在せず、\({J_n}^n(0)=O\)である。

次回はジョルダン細胞の累乗を扱う。

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